2016年10月2日日曜日

日本初、降圧3成分を含有した配合剤 ミカトリオ配合錠



ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン、アムロジピンベシル酸塩及びヒドロクロロチアジドという作用機序の異なる3種類の有効成分を含有している日本初の降圧薬です。


各成分の作用機序


テルミサルタン(ミカルディス)は、ドイツで合成されたアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)です。
テルミサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体に選択的に結合し、アンジオテンシンⅡの生成経路に影響を与えることなく AT1 受容体を介した血管収縮及びナトリウム貯留ホルモンであるアルドステロンの遊離を抑制し、降圧作用を発現します。

高血圧症患者に対してテルミサルタンの降圧効果は 24 時間以上持続することが国内外の臨床試験から確認されています。


アムロジピンベシル酸塩(ノルバスク、アムロジン)は、作用時間の持続を目的として開発されたジヒドロピリジン系カルシウム(Ca)拮抗薬です。
ジヒドロピリジン受容体と高い親和性を示します。
作用の発現は緩やかかつ持続的であり、1 日 1 回の投与により 24 時間にわたり降圧効果を示すことが明らかにされています。


ヒドロクロロチアジドは、チアジド系の利尿薬として1959年から販売されている歴史の長い薬です。
その作用機序は、腎でのナトリウムの再吸収を抑制し、体内のナトリウムと水
分の排泄を促進することです。
その結果、循環血液量が減少し、長期的には末梢血管抵抗が低下し、降圧作用を示すと考えられています。


ミカトリオ配合錠は患者アドヒアランスを向上させるのか


日本では、テルミサルタンを含有する配合剤として、ミコンビ配合錠(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド配合錠)とミカムロ配合錠(テルミサルタン/アムロジピンベシル酸塩配合錠)が発売されています。

降圧薬の併用療法について、高血圧治療ガイドライン 2014 では、2 剤の併用として ARB と Ca 拮抗薬又は利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)と Ca 拮抗薬又は利尿薬、あるいは Ca 拮抗薬と利尿薬を推奨しています。
また、2 剤で十分な降圧が得られない場合、ARB あるいは ACE 阻害薬と Ca拮抗薬、利尿薬の3種類の薬剤の併用を推奨しています。

併用療法が推奨されている一方で、服薬錠数が増えることで患者のアドヒアランスが低下し、血圧コントロール不良とともに心血管病の発生が増加することが報告されています。
この点が現在の高血圧症治療の問題点となっています。


そこで、3つの薬を1つにしてしまえば、患者さんもの服薬も楽になるのではと考えられ開発されたのが『ミカトリオ配合錠』です。


錠剤が大きいけれど


ミカルディス錠80mgも大きさが1cmくらいあって、でかくて飲みづらいイメージがありますが、3つの成分をまとめているだけあります。
更にでかくなっています。

直径:11mm
厚さ:約4.9mm
重さ:約0.49g


ただ、ミコンビBPと直径が同じ、ミカムロBPとは直径・厚さが同じです。
これらが服用できている人に切り替えて使うものですから、飲みにくいとは思いますが、問題ない範囲でしょう。


使いにくそう


ミカトリオ配合錠は2成分で十分な効果が得られていない場合の選択肢という位置付けですが、厚労省の新薬審議会で「3成分を配合する意義をもっと調べた方がよい」などとする意見が出て、一度承認が見送られたことがあります。

ガイドラインでは血圧コントロール不良の患者さんには3種類の薬剤の併用を推奨していますが、実臨床の治療では薬剤を増やすこともあれば、減らすこともあります。例えば、冬場は血圧が上がりやすいので3剤併用を行なうが、暖かくなってくると2剤併用に減らしていくといった、いわゆる、さじ加減でコントロールされているものです。3成分配合剤を飲み始めてしまうと、なかなか減らしにくくなってしまう懸念があります。

ともあれ、安易に切り替えるべき薬ではないようです。

【2016年12月追記】
平成28年12月26日厚生労働省保険局医療課長通知「ミカトリオ配合錠の保険適用に係る留意事項について」が発出されました。
概要は以下のとおりです。


  1. ミカトリオ配合錠については、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課において適正使用の指針が定められ、今般、別添のとおり連絡されているところであるので、使用に当たっては十分留意すること。
  2. 原則として、テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgを8週間以上、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本製剤への切り替えを検討すること。
  3. 本製剤への切り替えに当たっては、次の事項を切り替えた月の診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
    (1) テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgの併用療法として使用していた品名及び使用期間
    (2) テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgの併用療法における血圧コントロールの状況及び安定した血圧コントロールが得られていると判断した際に参照した血圧測定値及び当該血圧測定の実施年月日
  4. 本製剤の継続使用に当たっては、本製剤へ切り替えた月の翌月以降の診療報酬明細書の摘要欄に、本製剤へ切り替えた診療年月を記載すること。

以上は平成29年1月1日から適用されます。


ミカトリオ配合錠

[効能・効果]
高血圧症

過度な血圧低下のおそれ等があり、本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと。

[用法・用量]
成人には1日1回1錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジドとして80mg/5mg/12.5mg)を経口投与する。
本剤は高血圧治療の第一選択薬として用いない。

原則として、テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgを一定の期間、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本剤への切り替えを検討すること。

事務連絡
平成28年11月25日
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課

ミカトリオ配合錠の適正な使用について

【はじめに】
ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の配合剤であり、本邦で初めて承認された 3剤配合降圧薬である。
降圧目標を達成するためには、多くの場合 2、3 剤の降圧薬併用が必要となる。異なる機序の降圧薬の併用は、お互いの降圧効果を増強しあうことにより降圧効果が大きくなり、降圧目標を達成するために有用である。さらに、配合剤に期待される利点は、服用錠数の減少による服薬アドヒアランスの改善と維持である。服薬アドヒアランスは血圧コントロールの良否とともに心血管病の発
症・予後に関係することが報告されており、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン 2014 においても、その重要性が示されている。
その一方で、配合剤は用量が固定されており、初期投与により過剰な血圧低下の恐れがある、投薬の調整をすることが難しい、副作用が生じた際に原因となる薬剤の特定が困難である等の懸念点がある。そこで、本剤が臨床現場で安全に適正に使用されることを目的とし、本邦における適正使用の指針として本ガイドラインを策定した。
なお、本ガイドラインは、厚生労働省の依頼により、一般社団法人日本循環器学会及び特定非営利活動法人日本高血圧学会(50 音順)の協力のもとに策定された。

【目的】
本ガイドラインは、医師(特に、一般臨床医)、薬剤師などの医療従事者に対し、3 剤配合降圧薬であるミカトリオ配合錠に関する情報提供を行うとともに、本剤の適正で効果的な使用を促すことを目的とする。

【ミカトリオ配合錠について】
ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の配合剤である。本剤の配合成分であるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、カルシウム拮抗薬(Ca 拮抗薬)および利尿薬の組み合わせは、2 剤併用で降圧目標が達成されない、コントロール不良高血圧患者に用いられる併用成分として国内外のガイドラインで推奨されている組み合わせの一つである。
本剤の配合成分の特徴として、テルミサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体に選択的に結合し、アンジオテンシンⅡの生成経路に影響を与えることなく AT1 受容体を介した血管収縮及びナトリウム貯留ホルモンであるアルドステロンの分泌を抑制し、降圧作用を発現する。アムロジピンは、作用時間の持続を目的として開発された Ca 拮抗薬で、ジヒドロピリジン受容体と高い親和性を示し,細胞内へのカルシウムの流入を減少させることにより,末梢血管の平滑筋を弛緩させることで降圧作用を発現する。ヒドロクロロチアジドは、腎でのナトリウムの再吸収を抑制し、体内のナトリウムと水分の排泄を促進することで循環血漿量を減少させ、長期的には末梢血管抵抗が低下し、降圧作用を示すと考えられている。


【適正な使用について】
-添付文書より抜粋-
【効能・効果】
高血圧症
<効能・効果に関連する使用上の注意>
過度な血圧低下のおそれ等があり、本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこ
と。
【用法・用量】
成人には1日1回1錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジドとして 80mg/5mg/12.5mg)を経口投与する。本剤は高血圧治療の第一選択薬として用いない。

<用法・用量に関連する使用上の注意>
原則として、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg を一定の期間、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本剤への切り替えを検討すること。

原則として、以下の併用療法を「8 週間以上」継続して有効性と安全性の観点から継続が妥当と主治医が判断した場合に、本剤への切り替えを検討する:
①テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の単剤併用、
②テルミサルタン 80mg/アムロジピン 5mg 配合剤とヒドロクロロチアジド 12.5mg の併用、
③テルミサルタン 80mg/ヒドロクロロチアジド 12.5mg配合剤とアムロジピン 5mg の併用。
高血圧治療において、配合剤は第一選択薬とはならない。まずは単剤、2剤の併用から治療を開始し、原則として、本配合剤の同一用法・用量(降圧薬単剤の併用や 2 剤配合剤の併用)の組み合わせにより安定した血圧コントロールが得られている場合に本剤へ切り替える。

本剤に変更後に、副作用の出現や過降圧等が見られた場合には速やかに中止して、変更前の治療薬に戻したり、その際に一部の成分を減量したり、他の薬剤による降圧療法に変更したりするなど、適切な高血圧管理を行うこと。
本剤の使用時には、降圧効果の判定や過降圧の早期発見などに朝夕の家庭血圧による評価が有用である。また、過降圧に関連して、過度の発汗、嘔吐、下痢などによる脱水がみられた場合等の注意点(血圧測定、服薬中止、速やかな医療機関の受診)を十分に情報提供することが重要である。

<補足:適切な高血圧管理>
高血圧治療における降圧目標は 140/90mmHg 未満とする。ただし、糖尿病や蛋白尿陽性の慢性腎臓病では降圧目標は 130/ 80mmHg 未満とする。後期高齢者は 150/90mmHg 未満を降圧目標とし、忍容性があれば140/90mmHg 未満を目指す。

降圧薬治療は、Ca 拮抗薬、ARB/ACE 阻害薬、少量利尿薬、β 遮断薬を主要降圧薬とし、積極的な適応や禁忌もしくは慎重使用となる病態や合併症の有無に応じて適切な降圧薬を選択する。積極的な適応がない場合の高血圧に対しては、最初に投与する降圧薬は第一選択薬となる Ca 拮抗薬、ARB、ACE 阻害薬、利尿薬の中から選択する。異なる種類の降圧薬の併用は、降圧効果が大きく降圧目標を達成するために有用である。

血圧の日内変動や季節変動の異常、仮面高血圧、血圧の不安定性(動揺性)には降圧薬の薬効や作用時間、生活習慣、精神的ストレス、高度の動脈硬化など様々な原因がある。その詳細と対策は日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン 2014 を参照にされたい。

本剤のような Ca 拮抗薬、ARB/ACE 阻害薬および利尿薬の 3 成分(配合剤、併用療法を問わない)により降圧目標に達しない治療抵抗性の高血圧患者の管理においては、高血圧患者の診療に必要な総合的な知識と技量を有する医師への紹介が推奨される。