2012年4月13日金曜日

αグルコシダーゼ阻害薬の特徴と使い分け

糖尿病治療において日本では3種類のαグルコシダーゼ阻害薬が存在します。アカルボース、ボグリボース、ミグリトールです。

αグルコシダーゼ阻害薬は、小腸で二糖類を分解する酵素のαグルコシダーゼと結合し、競合的に糖の分解を阻害します。それによって糖分の吸収が遅れ、食後の血糖の上がりを穏やかにします。

毎食直前に服用します。なぜかというと、食物と同時に小腸内に存在していないと意味が無いからです。

未分解の糖類が大腸へ到達すると腸内細菌の作用によりガスの発生、腹部膨満感、便秘あるいは下痢などの副作用を生じることがあります。


【アカルボース:グルコバイ】
アカルボースは日本で最初に実用化されたαグルコシダーゼ阻害薬です。そのため、実績がありデータも豊富にあります。

境界型耐糖能異常の患者さんを対象としたプラセボ対象二重盲検試験では糖尿病新規発症の減少や高血圧新規発症・心血管イベントの減少が示されています。

Chiasson JL, et al. (2002) Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial.:Lancet 359 : 2072-7,
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(02)08905-5/fulltext

Chiasson JL, et al. (2003) Acarbose Treatment and the Risk of Cardiovascular Disease and Hypertension in Patients With Impaired Glucose ToleranceThe STOP-NIDDM Trial :JAMA 290: 486-94
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=196993


2型糖尿病患者さんを対象としたプラセボ対象二重盲検試験のメタ解析でも心血管イベントの減少が示されています。

Hanefeld M, et al :  (2004) Acarbose reduces the risk for myocardial infarction in type 2 diabetic patients: meta-analysis of seven long-term studies . Eur Heart J25 (1): 10-16.


アカルボースにはαグルコシダーゼのほかにアミラーゼの阻害作用もあります。そのため、多糖類が分解されず、残って大腸に行く場合があり、他の2剤に比べて便秘が多く、ガスの発生が多くなる傾向にあります。


【ボグリボース:ベイスン】
ボグリボースはアカルボースよりも腹部症状の少ない用量設定になっています。使用しやすいのですが、その分効果も穏やかです。アミラーゼの阻害作用はないのでガスの発生は少なめです。便秘よりも軟便傾向が多いようです。日本人の境界型耐糖能異常の患者さんに投与され糖尿病新規発症の減少が認められました。

Kawamori R, et al : (2009) Voglibose for prevention of type 2 diabetes mellitus: a randomised, double-blind trial in Japanese individuals with impaired glucose tolerance. Lancet 373 : 1607-14
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)60222-1/abstract

そのため、日本において境界型耐糖能異常患者さんに対する糖尿病発症予防のために投与することが認可されています。


【ミグリトール:セイブル】
ミグリトールは他の2剤と異なり、薬剤自体かなり吸収されます。この特性により小腸の初めのほうで薬が多く、下部では薬量が少なくなります。そのため、食後早期のブドウ糖吸収を強く抑制できます。結果として食後1時間の血糖上昇を強く抑えることができます。そして食後血糖の上昇も抑えることができます。

Arakawa M, et al. (2008)Miglitol suppresses the postprandial increase in interleukin 6 and enhances active glucagon-like peptide 1 secretion in viscerally obese subjects. Metabolism 57 : 1299-1306



アミラーゼの阻害作用はないのでガスの発生は少なく、便秘よりも軟便傾向が多いようです。特に高用量では下痢が出やすいので注意がい必要です。


使い分け
糖尿病初期の患者さんでは食後1時間付近に血糖のピークがあることが多いです。そのため、ミグリトールがいい感じです。
境界型耐糖能異常の人にはベンスン錠0.2mgが投与を認められています。

糖尿病が進行した患者さんでは食後2時間付近に血糖のピークがあることが多いです。そのため、アカルボース、ボグリボースが良い適応となります。しかし、投与可能量の関係からミグリトールのほうが血糖値のピークが低くなることがあります。

αグルコシダーゼ阻害薬の作用はインスリン分泌能に依存しないため、インスリン分泌が少ない患者さんにおける食後血糖上昇の抑制効果は多剤よりも確実かつ強力です。DPP-4阻害薬も食後血糖を低下させることが知られていますが、HbA1cが8.0を超える患者さんや多剤併用が必要な患者さんではやや下がる程度でαグルコシダーゼ阻害薬とは比べ物になりません。

αグルコシダーゼ阻害薬にはGLP-1分泌促進作用が認められています。DPP-4阻害薬との併用には相乗効果が期待されています。この効果はどのαグルコシダーゼ阻害薬でも認められています。

αグルコシダーゼ阻害薬は腹部症状で中断してしまう患者さんが多く見られます。残念ですが腹部症状はαグルコシダーゼ阻害薬の作用そのもの一部なので完全に避けることはできません。しかし、投与初期に強く現れ、それを乗り越えれば次第に緩和してくる傾向があります。低用量から開始して徐々に増やしていくとよいでしょう。また、整腸剤の併用が有効な場合もあります。

最も重要な事は、「腹部症状が出ること」「次第に緩和すること」を服薬説明の時にあらかじめ説明しておくことで患者さんの不安を取り除いてあげることです。