2017年4月13日木曜日

スインプロイク錠(ナルデメジン) モルヒネやフェントステープでおきる便秘の治療薬 


オピオイド誘発性便秘症に対する日本初の治療薬としてナルデメジントシル酸塩成分とする『スインプロイク錠0.2mg』が2017年3月に承認されました。

オピオイド鎮痛薬と便秘


がんの痛みや慢性疼痛の治療のためにオピオイド鎮痛薬が使用されることがあります。
オピオイド鎮痛薬とは、神経系の司令塔の部分である脳や脊髄に作用して痛みを抑える薬の総称です。

モルヒネ、オキシコンチン、フェントステープなどの医療用麻薬や慢性疼痛に使用されるトラマドール(トラマール)などがオピオイド鎮痛薬に該当します。

オピオイド鎮痛薬は中枢の μ オピオイド受容体を介して鎮痛作用を発揮する一方、消化管に存在する末梢の μ オピオイド受容体を介して消化管運動及び消化管神経活動を抑制し、オピオイド誘発性便秘症を引き起こします。

Brock C, et al., Opioid-induced bowel dysfunction: pathophysiology and management.Drugs 72: 1847-1865, 2012
PMID: 22950533 

日本において、オピオイド誘発性便秘症をに対する治療としては、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース)や大腸刺激性下剤(ラキソベロン、センノシド)などが使用されています。浸透圧性下剤は、習慣性が少ないことや安価なため高齢者を含め第一選択となる傾向があります。しかし、浸透圧性下剤は電解質異常や腹部膨満感等の副作用があり、特に酸化マグネシウム製剤は高齢者において高マグネシウム血症のリスクが報告されています。そして、大腸刺激性下剤は耐性や習慣性があり、痙攣性の便秘や腹痛を伴う場合は使用してはならないとされています。また長期使用による大腸メラノーシス等の副作用の問題があります。
さらに緩下剤では十分な効果が得られない患者さんも半数近くいます。

これら既存治療薬の有する問題を克服する新しい治療薬が求められていました。

そこで登場したのがスインプロイク錠です。

スインプロイク錠の作用機序


モルヒネやオキシコンチン等のオピオイド鎮痛薬は、主に中枢の μ オピオイド受容体を介して鎮痛作用を発揮する一方、消化管に存在する末梢の μ オピオイド受容体にも作用してしまい、便秘等を引き起こしてしまいます。

スインプロイク錠(ナルデメジン)は
消化管の末梢 μ オピオイド受容体にフタをすることで、オピオイド鎮痛薬を末梢で作用させなくします。
そのため、腸の活動が維持できるため、便秘が起こらなくなります。

ナルデメジンの作用機序



有効性


国内第三相臨床試験において、スインプロイク錠投与群とプラセボ投与群についてオピオイド鎮痛薬使用に伴う便秘症状の緩和の効果を比較しました。投与2週目の自発排便反応率は、スインプロイク錠投与群(0.2mg錠1日1回1錠)で、プラセボ群に対し有意に上回りました。

安全性


臨床試験においてスインプロイク錠0.2 mg1日1回投与は,概ね忍容性を示しました。
最も頻度が高かった有害事象は胃腸障害でした。腹痛や下痢が主なものでした。
スインプロイク錠投与によるオピオイド退薬症候や鎮痛効果への影響は認められませんでした。


食事の影響について


スインプロイク錠の薬物動態に及ぼす食事の影響を検討し臨床試験において、食後に投与した場合、Cmaxは空腹時投与と比較して約 35 %減少し、tmaxは空腹時投与の0.75 時間から 2.50 時間に延長しました。このことから、食事摂取による吸収の遅延が示唆されました。しかし、有効性や安全性に特段の問題は認められませんでした。
以上より食事摂取による吸収の遅延は、臨床上大きな影響は及ぼさないと考えられ、食事の摂取の有無にかかわらず投与できると考えられます。

腎機能障害患者に対する投与について


臨床試験において腎機能障害による影響を検討したところ、高度の腎機能障害患者で AUC0-infは腎機能正常者と比較して約 1.38 倍に上昇しました。けれども、腎機能正常者と比較して、腎機能障害患者の有害事象発現割合が上昇するような傾向はみられませんでした。
他の臨床試験において、承認用量の2倍量(0.4mg)を投与し曝露量が約2倍上昇した場合においても、有害事象の発現は 0.2 mg 投与群と比較して大きな差異は認められませんでした。
このことから高度の腎機能障害患者において安全性上のリスクが上昇する可能性は低いと考えられます。

スインプロイク錠と酸化マグネシウムは併用できるのか?


他の緩下剤が併用されていた、がん患者対象国内第 II 相と第 III 相試験において、緩下剤の併用による影響は認められず、有害事象の発現割合も緩下剤を併用することによる臨床上の問題は認められませんでした。
また、非がん性慢性疼痛患者対象長期投与試験においても緩下剤を併用していない患者数が限られてはいるものの、同様に大きな問題は認められませんでした。

併用は可能みたいですが、相加効果は期待できなさそうです。



スインプロイク錠0.2mg

[効能又は効果]
オピオイド誘発性便秘症

[用法及び用量]
通常、成人にはナルデメジンとして 1 回 0.2 mg を 1 日 1 回経口投与する。