2017年4月11日火曜日

中年期以降の物忘れの改善効果のある「オンジ」とは

オンジ製剤は認知症の治療または予防に用いる医薬品ではありません

2017年4月、「中年期以降の物忘れの改善」を効能効果とする一般用医薬品が2品目相次いで発売されます。

クラシエ薬品の『「クラシエ」オンジエキス顆粒』と
ロート製薬の『キオグッド顆粒』です。

【2017年7月追記】
2017年6月には小林製薬から『ワスノン』が発売されました。

いずれも、生薬のオンジ(遠志)から抽出したエキスを乾燥粉末化した単味製剤です。

生薬:オンジ(遠志)とは


ヒメハギ科イトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根又は根皮が基原です。
北アメリカには同属植物の薬草、セネガシロップでおなじみのセネガ (Polygala senega) があり、セネガを中国では美遠志とよんでいます。セネガは鎮咳・去痰薬として利用されています。

オンジの主な成分はトリテルペンサポニンのオンジサポニンA~G、キサントン誘導体、トリメトキシケイヒ酸などです。
主な薬効は鎮静、去痰、抗炎症、強壮薬として、精神安定、神経衰弱、病後の不眠、動悸、気管支炎、気管支喘息です。
漢方薬の構成生薬であり、精神神経用薬、保健強壮薬とみなされる処方に少数例配合されています。
代表漢方処方には、帰脾湯(虚弱体質で血色の悪いものの貧血、不眠症に用いる。)、そして、人参栄養湯(病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血などに用いる。)があります。

オンジは物忘れに効果があるのか


オンジと記憶に関する検討を行った報告があります。
ラットにおいて、スコポラミンおよびストレスで誘発させた記憶喪失をオンジエキスが改善したそうです。
また、健常成人におけるオンジエキスのランダム化二重盲検比較試験において、
健康成人に、
オンジエキスを投与したグループと
プラセボと比べて
口頭記憶と作業記憶が向上するのか評価したところ

オンジエキスを投与された人のほうが投与されなかった人に比べて、記憶を評価するためのテストの成績が良かったという結果が得られたとのことです。
オンジエキスが記憶増強効果を有し、健康な成人において記憶を改善しうるものであることが示唆されています。

Neuroscience Letters, 454(2), 111-114 (2009). 
PMID: 19429065

Neuroscience Letters, 465(2), 157-159 (2009). 
PMID: 19699261


なぜ、今、単味製剤なのか


なぜ、単味の漢方製剤がいきなり出てきたのかというと
単味生薬製剤の製造に関するガイダンス」が2015年12月策定されたためです。

現行の日本薬局方には200品目を超える生薬が収載され、市場に流通しているが、その用途のほとんどが漢方製剤の製造原料であり、単味生薬のエキス製剤としてはほとんど開発が進んでいない状況でした。
そこで国は2010年に厚生労働科学研究班を設置し、研究班において生薬製剤の承認審査基準原案策定のための検討が行われ、医薬品の製造販売業者が、単味生薬のエキス製剤の開発を行うに当たり、標準煎剤と生薬エキスとの同等性を確認するための比較試験方法や一般用エキス製剤の製造販売承認申請において設定すべき生薬エキスの製造方法、規格及び試験方法等に関する事項を示したガイドラインを検討・策定されました。

つまり、単味生薬製剤が開発しやすい土壌が整ってきたということです。
今後も、このような単味生薬製剤がでてくることでしょう。

物忘れと認知症のちがい