点数が大幅に引き上げられた上に、施設基準に「実績要件」が新設されたことで、 病院はポリファーマシー対策と退院時薬薬連携を本気で強化せざるを得なくなりました。
この改定は病院の収益構造を変えるだけでなく、地域の薬局にとって 「受け皿機能」と「病院との真の連携体制」がこれまで以上に問われる大きな転機となります。
1. 病棟薬剤業務実施加算の概要(改定前のおさらい)
病棟薬剤業務実施加算とは、病棟(または治療室)に専任の薬剤師を配置し、 以下の業務を1週間あたり20時間以上実施した場合に算定できる加算です。
- 患者への服薬指導・薬歴管理
- 服薬計画の提案
- 持参薬鑑別
- 医師・看護師の負担軽減に直結する薬剤業務
算定対象の入院料によって区分が分かれ、一般病棟入院基本料・特定機能病院入院料・ 地域包括医療病棟入院料などを算定する病棟が対象となるのが 「病棟薬剤業務実施加算1」(従来120点/週1回)でした。
2. 2026年度改定の内容(点数・施設基準の劇的変更)
① 点数の大幅引き上げ
| 区分 | 改定後 | 改定前 |
|---|---|---|
| 病棟薬剤業務実施加算1 | 300点(週1回) | 120点(週1回) |
| 病棟薬剤業務実施加算2 | 120点(週1回) | (旧)加算1 |
| 病棟薬剤業務実施加算3 | 100点(1日につき) | (旧)加算2 |
特に新設の上位区分「加算1」の300点は、 業界内で「150〜200点程度を予想していた」という声が多かった中での驚きの評価です。
② 施設基準の厳格化(実績要件の新設)
改定後の「病棟薬剤業務実施加算1」の施設基準には、 以下の新要件が追加されました。
薬剤総合評価調整業務及び退院時薬剤情報管理指導につき十分な実績を有していること。
単に薬剤師を配置するだけでなく、
- ポリファーマシー対策としての処方見直し・減薬の実績
- 退院患者への丁寧な服薬指導と、薬局等への情報共有(薬剤サマリ等)
これらを「十分な件数」で達成している施設だけが最高評価(300点)を受けられる仕組みです。 厚労省・中医協は明確に「質と実績」を重視するメッセージを発信しています。
3. 病院薬剤師・病院経営への影響
この改定は、病院の収益構造を変えるかもしれません。
収益試算例(1点10円換算)
- 500床規模の急性期公立病院(病床利用率80%):年間約4,000万円の増収
- 300床規模:年間約2,300万円の増収
- 100床規模:年間約750万円の増収
※病床利用率や対象患者割合により変動しますが、急性期病院にとっては無視できない額です。
病院側は「絶対に病棟薬剤業務実施加算1(300点)を算定したい」と本気になります。
そのために必要な「十分な実績」を作るには、 退院時薬剤サマリの作成・薬局への積極的な情報提供が必須です。
結果、病院薬剤師には以下の業務負担が大幅に増加します。
- 薬剤総合評価調整加算の実績作り
- 退院患者の服用薬剤レポート(薬剤サマリ)作成
- 地域薬局との薬薬連携業務
これに対応するため、薬剤部内での業務効率化が急務です。
- 在庫管理システム
- 調剤機器・監査システム
- 連携文書効率化ツール、AI文書作成
- AIによる薬剤サマリ自動生成 など
4. 調剤薬局への影響と今後の生存戦略
薬局側から見ると、これは 最大のチャンスかつ最大のリスクです。
2040年を見据えた新たな地域医療構想では、 急性期病院の機能集約と在宅・地域医療の強化が明確に打ち出されています。
今回の改定により、病院は自らの収益を守るために 「退院患者の薬剤情報を地域にしっかり引き継ぐ」ことを強いられます。
つまり、これまで以上に頻度高く・質の高い薬剤サマリが薬局に届くようになります。
薬局が今すぐ取り組むべきこと
- 病院からの薬剤サマリを確実に受け取り、即座に薬歴・服薬指導に反映する体制の構築
- ポリファーマシー対策の継続(減薬提案・フォローアップ)
- 病院薬剤師から「この薬局になら安心して患者を任せられる」と思われる信頼関係の構築
- 電子的な情報共有ツールの活用準備(可能なら)
病院側が「連携先として選ぶ薬局」になれなければ、 退院患者の処方箋が他店に流れるリスクが高まります。
逆に、しっかり受け皿になれば、 病院から「優先的に紹介される薬局」として安定した処方箋獲得につながります。
まとめ
2026年度改定の病棟薬剤業務実施加算見直しは、単なる点数アップではありません。
「病院薬剤師の臨床業務を評価し、地域連携を強制的に進める」 ための強力な政策シグナルです。
薬局経営者・薬剤師の皆さまには、
「病院の変化を待つのではなく、自ら連携体制を強化する」
という積極的な姿勢がこれまで以上に求められます。